みどりのながれ

日々のメモ

東京国立博物館 古代メキシコ展

 

先日、上野の東京国立博物館

『特別展 古代メキシコ マヤ、アステカ、テオティワカン

を見に行きました。

なかなか素敵な展示だったので、

気になった展示物と感想をここにまとめておこうかと思います。

 

 

私が行ったのは7月の初旬。

最初に博物館の入口でチケットを購入するのですが、

そこで少しだけ待ち時間ができていました。

およそ10分くらいだったでしょうか、

会期終了間近になるとここで長く待たされることになるんですが

この日はさほどでもなかったように思いました。

 

一年前の『ポンペイ展』の時は

コロナ禍による完全予約制で入場時間が決められていましたが

今は行きたい時間にふらっと行って入場できるので

その点は元通りになってよかったなと思います。

 

 

コインロッカーで荷物を軽くし、展示室へ。

会場は全展示物撮影可。

個人利用という形でSNSなどへのアップロードも

可という形態になっているようです。

 

音声ガイドは上白石萌音さんと、『嵐の神』役で杉田智和さん。

あまり古代メキシコについては詳しくないな…と思い

今回はガイドを借りて解説を読みゆっくり見て回ることにしました。

 

ちなみに…。

展示室はかなり冷房が強く、

そんなに薄着でもなかった自分でもすごく寒く感じたので

何か羽織るものがあった方がいいと思います。極寒です。

ノースリーブワンピの女の人とかいて

「寒くないの!?我慢してない!?」ってめっちゃ思いました。

 

 

 

【気になった展示品】

 

 

球技をする人の土偶

 

両手に収まるサイズのこの像は球技をしているものなのだとか。

手足の動きや腰のひねりがなんともユニークかつリアルさに溢れていて、

ずっと見ていても飽きない良さがあります。

 

古代メキシコの立体物はなぜか手足の指の造形がかなり精巧で、

これも指の一本一本までしっかり作られていました。

何かこだわりがあったのかもしれません。

 

ちなみに古代メキシコの球技は手も足も使わず、

腰でボールをはじいてリング状のゴールに

入れるというルールだったらしいです。

 

 

 

テクパトル

 

顔の付いたこの石器はナイフであり、生贄を捌く時のための儀式用だとか。

古代メキシコ全体が纏う、ゆるくてどこかかわいくて、

でも血なまぐさいという要素を象徴している展示品だと思いました。

このテクパトルに始まり、生贄の話が何度も何度も出てきます。

 

 

 

死のディスク石彫

 

中央にドクロがデザインされた巨大なオブジェの一部。

古代メキシコでは日没とともに太陽が死に

夜明けとともに再生すると信じられていたそうで、

この石彫も西向きに神殿に設置されていたもの(だったはず)。

 

画像では伝わりにくいんですが

屋外に置かれていた分なかなかのサイズで見ごたえありました。

今回の「これってこんなに大きかったんだ」賞。

 

古代メキシコにポケモンGOがあったら

たぶんこれはジムになってると思います。(ゲーム脳

 

 

厚みはこんな感じ。

『ディスク』というのはなかなか的確な表現だなと思いました。

支えてる赤茶色のボードが展示の雰囲気を損なわない色合いで

なんかいいですね。

 

 

 

生贄が身につけていたヒスイの装飾品

 

こういった装飾品はまあありがちかな…と通り過ぎようと

していたんですが、解説パネルの前で女の子二人が

「いつ生贄を胡坐の体勢に整えたか」を

熱く話し合っててめっちゃ聞き耳立てました。

 

自分にはなかった視点や感想をふいにもらえることがあるのも

美術館・博物館の展示の良さでもあります。

 

 

 

トランペット

 

貝でできた楽器というと、戦国時代の陣中で使われるような

そういう”和”のイメージが強かったんですが、

古代メキシコにもあったというのは初知り&驚きでした。

 

しかも丁寧に絵が彫られているではありませんか。

こんな凹凸したものを絵で装飾するという発想がなかったので

そこも含めてインパクト大でした。

 

 

だいたい写真は展示物につき1,2枚だったんですが、

このほら貝はいろんな角度から5枚ぐらい撮っちゃいましたね。

存在感があります。

 

 


香炉

 

古代メキシコ展、写真に撮ったこの香炉以外にも

たくさんの香炉が展示されていたのが驚きでした。

 

そしてなんといってもこの造形!

隣で見ていた人が「香炉に対しての美意識が高い」と言っていましたが、

まさにその言葉に全力同意でした。

 

全体的に割れ欠けしやすそうな重心の高い不安定な形なのも、

輸送や展示に思いを馳せることができたりしてよかったですね…。

はるばる日本までようこそって感じでした。

 

ちなみに、焚かれた香は『コーパル』という

木の樹脂からできたものだったそうです。

樹脂が長い年月を経て固まって化石化したものが琥珀ですが、

その一歩手前の状態のものを使っていたということですね。

そう聞くとなんだかすごく贅沢品なような…。

 

爽やかでスパイシーな香りがするそうなんですが、

さすがに現代ではお香として流通してるものは少ないんだろうなあ。

一度嗅いでみたいです。

 

 

 

三足土器

 

生贄儀礼が描かれたテオティワカンの三足土器。

心臓が突き刺さったナイフと滴る血液が生々しい。

 

 

解説に『生贄儀礼は古代国家の最大の関心事』とあり、

それはさすがに大げさすぎないか…?と思ったんですが、

確かに趣味や娯楽といった物事に関する出土品がないので

非常に真実味がありました。

 

先ほどの香炉も儀式用ですし、

球技はあっても娯楽というよりは勝敗を決めるための手段でした。

 

現代の感覚だと野蛮で悪魔的ととらえられるかもしれませんが、

熱帯故に食料の保存がきかず、

神々に生贄を捧げることで自然の秩序あるサイクルと調和し、

祈ることで国家や文明を支えていたという

バックボーンがあると分かるとすんなり納得できる気がします。

 

自然を敬い祭祀によって調和するといったところは

日本の神道にも通ずるところがあるからでしょうか。

 

 

 

トニナ石彫 159

 

マヤ文明、砂岩に彫られた生贄の姿と碑文。

周囲に掘られているものが『マヤ文字』で、

儀式の日付や生贄となった人物の名が記されています。

よくこれが文字だと分かり、

そして解読がなされたなと感嘆するばかりです…。

 

マヤ文字の解読に関しては、話が長くなるのか会場に説明はなく、

図録の方にトピックスという形でまとめられていました。

図録買ってよかったな~と思った瞬間でした。

 

 

 

円筒型土器

 

さっき趣味娯楽の話を記しましたが、

嗜好品の存在がそういえばあったんでした。

 

カカオ飲料はトウモロコシのお粥や唐辛子と混ぜたり、

蜂蜜で甘みを付けたりといろいろ味変していたらしいです。

なんか急に現代人みたいな面出てきたぞ。

 

 

ちなみに、この縦長の土器がカカオ飲料用だと分かった時に衝撃が走りました。

以前カップ&ソーサーの展示を見に行ったことがあるのですが、

ホットチョコレート用のものがこれと同じ縦長の器だったんですよね。

 

カカオ飲料は古代メキシコが発祥で、

スペイン人がヨーロッパに持ち帰ったことで世界に広まっていきましたから

まさにこのティーセットの原型、

歴史の根っこの部分を見て知ったことになりました。

カカオの香りを楽しむために縦長のカップを使っていたとは聞きましたが、

メキシコで嗜まれていた時代からもうこの形状だったんですね。

知識の断片が繋がった瞬間でした。

 

 

 

トニナ石彫 171

 

マヤ文字関連で一番見ごたえあったのがこの展示。

石板にびっしりとマヤ文字が彫られており、

文字の装飾性も相まって美しさを感じます。

 

 

マヤ文字の石彫は記念碑・歴史書のような役割を果たしているそうですが、

実際どれくらいの割合の人が読み書きできたんでしょうね。

文字を記すことに時間や手間がかかりすぎるからか、

物語や日記といった方面では使用されなかったそうです。

そりゃそうか。

 

もともと筆で紙に書くために生まれたとか、

『漢字』と『かな』のような2種類の系統の文字

表語文字と音節文字)の組み合わせでできてるとか、

遠い地域の文明の文字ながら日本語と共通点が多いのが面白いポイントでした。

それもあってか、アルファベット圏の学者は表語文字の部分をうまく読み取れず

解読の際に迷宮入りしかけたこともあったとか。

 

 

 

赤の女王のマスク・冠・首飾りなど

 

今回のメイン展示物。

メキシコ本国・アメリカ以外では初公開だそうです。

それってかなり特別待遇というか、

輸送や日本の展示環境を信頼して下さってるってことだな…。

ありがたい。しっかりと見てきました。

 

大きな神殿の壁飾りなど全体的に素晴らしかったですが、

展示空間がここはいっそう凝っていて、

女王の威厳をたっぷり感じられる雰囲気づくりがなされていました。

 

 

パレンケの神殿に埋葬されていた、通称『赤の女王』。

発見当時、辰砂(赤い鉱物)に覆われていたことからこの名がついたそう。

断定はされていませんが、

当時の王であったパカル王の王妃である可能性が高いそうです。

(王の親族とDNAが全く合致しないからとかなんとか)

 

マスクや首飾りは割れたりバラバラになっていて、

それをここまで復元したんだとか。

 

 

身長154cm、50代の女性というとなんとなくイメージができるのは

街中で見かける日本人のご婦人がそれくらいの背格好だから。

展示ケースの中でマスク等を身につけているのは人形ですが、

横たわってる様子に妙なリアリティを感じ実在感が高まりました。

 

 

 

チャクモール像

 

今回の展示の人気者。

朴訥な印象ですが、お腹の上には生贄の心臓が置かれたという

まさに古代メキシコな”ゆるこわ”像です。

体勢はちょいつらそう。

 

実物だし実際に使われたんだよな…と

皿の上を思わず覗き込みたくなりました。

 

メトロイドとかにこういうのありませんでしたっけ。

アイテム台座としてゲームによく似たものが登場してた記憶があるんですが、

具体的な例を思い出せずにいます…。

絶対どこかで見たことがあるんだけどな。

 

この像も顔周りの造形と比較して手足の指の描写が細かめ。

やっぱり何かこだわりがあったんですかね?

石の凹凸に合わせて作られた白い台座が

目立たないながらも見どころありました。

画像の下側のところ見てみてください。抜群のフィット感。

 

 

 

鷲の戦士像

 

アステカ文明の展示物の中でもひときわ目立っていたのがこの戦士像。

写真では伝わりづらいですが、

成人男性くらいの大きさがあります。(つまりは等身大)

ディスク型石彫と同じく、「これってこんなに大きかったんだ」賞でした。

 

360度どこからでも眺められる、

なんならケースも何もないむき出しの展示。

迫力というか、そこに存在してるだけで

空間に及ぼすパワーみたいなものがありました。

 

どういう形で出土したのかは分かりませんでしたが、

背中側が平面で何かにもたれてたような印象だったので

建物の入口あたりに門番みたいな状態で設置されていたんですかね。

 

これもまた割れ欠けしやすそうなデザインで、

輸送の際に相当気を遣ったんだろうなと…。

(この記事そういうことばっかり書いてる)

 

初めはそこまでお目当てにはしていなかったこの戦士像ですが、

翼と鉤爪の表現が勇壮でお気に入りになりました。

図録のジャケットがディスク石彫、赤の女王、鷲の戦士で

3パターンあったのですが、鷲の戦士のものを買って帰りました。

 

 

 

トラロク神の壺

 

雨と豊穣の神トラロクの壺。

会場の音声ガイド『嵐の神』もいわゆるこれですよね…?

 

 

このユニークな壺そのままの表情で

真・女神転生』シリーズに登場していたり、

Fate/Grand Order』でもキャラクター化されているという

なにかとゲームに呼ばれがちな神様。

表情がとてもユーモラスで親しみを感じてしまいます。

まさにこれ一つでキャラクターとして成り立ってしまう。

 

ちなみにFateの方は本展とのコラボグッズが会期途中からありました。

トラロク神…女の子になってましたね。

 

 

 

 

人面の付いた笛。

これもなかなか他の国にはない発想・デザインだと思いました。

 

 

面白いのは古代メキシコにも『擬人化』という手法があったこと。

そして花の擬人化であの顔になるのか…。

どんな音色がしたんでしょうねえ。

 

 

 

人の心臓形ペンダント

 

金細工ゾーンに並んでいた展示品のうちの一つ。

宝石店みたいなショーケースに極小の品々が展示されていました。

ペンダントトップのデザインが心臓っていうのが

いかにも古代メキシコで好きです。

実際に生贄の心臓を見ているであろう分妙にリアルな形だし。

心臓は記憶、意志、創造といった単純な人としてのパワーのほか、

寛容、誠実、勇敢といった精神面も表しているそうです。

 

よく、人間の魂はどこにあるのかみたいな話がありますが、

アステカ人は心臓にあると思ってたかな…?

(私は脳にあると思ってます)

 


金細工の展示の上部壁面には、

対峙するケツアルカトルとテスカトリポカの絵がありました。

(確かライトで壁に投影していた)

 

土器に描かれていたものもですが、

立体は割と写実的なのに平面の作品になると

ザ・古代文明みたいなタッチになるんですよね。

平面作品と立体作品の表現の差、

ゲームの世界観設定でも割とありがちなバランス感かも。

 

 

 

【購入したグッズ】

 

 

紙箱入りコーンスナック

 

パルプモールド(古紙100%)でできた箱に入ったスナック菓子。

シール1枚入りです(全3種)。

箱の表面に刻まれたマヤ文字は『とうもろこし・スナック』。

食べきりサイズのちょっとしたおやつでしたが美味しかったです。

古代メキシコ人の主食はトウモロコシ。

トウモロコシの女神・チコメコアトル神に感謝しつつ味わいました。

 

 

おまけのシールはディスク石彫でした。

あとの2種は赤の女王と鷲の戦士かな…?

イラスト化された姿がポップでかわいい。

 

 

 

古代メキシコ展公式図録

 

今回の展示の公式図録です。

これもなぜかカバーの部分が全3種。中身は同じです。

自分は鷲の戦士のものを選びましたが正直迷いました…。

本展の主役は間違いなく赤の女王だし、

ディスク石彫も古代メキシコを象徴してて図録の表紙にふさわしい…。

 

『糸かがりコデックス製本』というつくりで、

背表紙が綴じ見せのなんだかページが空中分解しそうなスタイル。

ただ、これがですね、パッと見シャレてるだけじゃなくて

ぺたっと180度開いて眺める事ができるので最高なんです。

分厚い本もう全部これにしちゃいます?(大げさ)

 

ちなみに図録は公式サイトから通販もできるらしいです。

さすが大きな展示は違うなー。

「この展示を見に行きたいのに期間中に行けない!せめて図録だけでも…!」

ということが今まで何度もあったので、

こういう試みはきっと有難いはずです。

大阪会場で観覧予定で、事前に購入して予習するといった使い方もできますね。

 

 

 

ポストカード

 

ミュージアムグッズの定番、ポストカード。

今回の主だった展示物を中心にラインナップされていました。

その中からこの4枚をチョイス。

赤の女王など主役級の展示物は背景色が違うものもありました。

 

最近時間が捻出できずポスクロできてないんですけど、

ポストカードを見るとつい買ってしまうクセはついちゃいましたね…。

 

 

 

【総合的な感想】

 

ここまで書いておいてアレなんですが、

実はそこまで「絶対行く!」という展示ではありませんでした。

でも実際足を運んでみたらとてもよかったです。

自分の引き出しになかった表現や価値観がどっと流れ込んでくる。

そんな印象でした。

 

それでも、どこか「こういうの見たことある!」となったのは

ゲームでよく『未知の文明』みたいな立ち位置で

部分的にモチーフにされがちだからかもしれません。

東洋でも西洋でもなく、

ある程度メジャーどころなのが選びやすいんでしょうか。

 

ここ最近の例だとゼルダの伝説のゾナウ文明とか…。

マリオオデッセイのアッチーニャとか…。

自分は『モンスターファーム』のカララギ地方を思い出しました。

密林+古代文明でまさにソレ。

 

ネットの画像や展覧会のリーフレットなどと比較して、

実物のものがイメージしてたスケールと違うものが多く

そこも楽しめたポイントでした。

百聞は一見にしかず。本物を見たという充実感。

ミュージアムならではの良さがありましたね。

 

そういう観点もあって、

輸送や展示までの経緯に想いを馳せるのも面白かったです。

割れ欠けしやすそうなものがケースなしで展示されている一方

台座のフィット感が抜群だったりと、

携わった人たちの努力や、観客への信頼が垣間見えた瞬間もありました。

 

事前知識があまりなかったので、

音声ガイドは借りて正解だったと思います。

ただ、展示物をしっかり見て、ガイドを聴いて、

解説文もじっくり読んでたのでひたすら時間がかかりました。

物販も含めると4時間ぐらいいたような気がします(!?)

 

メキシコというと、映画『リメンバー・ミー』の世界観や

マリアッチ、暖かい気候、テキーラ、タコス…。

とにかく『陽』といった明るく鮮やかな色彩の印象がありましたが、

古代メキシコ展は間違いなくその裏世界、『陰』のメキシコでした。

『生と死』、『雨季と乾季』、『昼と夜』。

光が強い分、闇もくっきりしているのかもしれないです。

 

生贄供犠の徹底っぷりには正直驚きましたが、

根底は自然に対しての畏れや敬いなど、神道と通じる部分も。

マヤ文字も難解なようで日本語と構成がよく似ていたりと

親近感を覚える要素を多く見つけることができたのもよかったです。

 

そんな苛烈な面を覗かせる文明が

スペイン人の来訪と共に滅亡してしまう儚さや、

その結果キリスト教が根付いてなお

一部の土着の文化が今も脈々と続いているところに

この文明が持つ魅力があるように感じました。

見に行けてよかったです。

 

 

 

古代メキシコ展の公式サイト

mexico2023.exhibit.jp